IPOとM&Aの「値段」はどう決まる?公募価格の裏側と企業価値の本質【2026年7月9日放送】

「IPOの公募価格が安すぎる」「あの買収は高値づかみだ」——市場ではこんな声が日々飛び交いますが、そもそも会社の「値段」はどうやって決まっているのでしょうか。

ヴェストラ

今回の放送は、その根本に迫る貴重な回となりました。

前半はフィリップ証券取締役常務執行役員・脇本源一氏が、IPO公募価格が「会社・証券会社・投資家」の三者調整で決まるカラクリを解説。後半は番組初登場、BASE One税理士法人共同代表CEO・坂上康介氏が、M&Aにおける企業価値の考え方を実務家の視点から語ります。

「IPO価格は会社の価値そのものではない」「M&Aは契約がゴールではなくスタート」——プロの言葉から、株価と企業価値の本質が見えてきます。

🎙 番組概要

番組名:投資がわかると意識がかわる!「ファイナンシャル・ジャーニー」
放送日:2026年7月9日(木)
提供:フィリップ証券(ユアパートナー・イン・ファイナンス)
パーソナリティ:浜田 節子 氏
コメンテーター
前半:脇本 源一 氏(フィリップ証券 取締役常務執行役員 投資銀行本部長)
後半:坂上 康介 氏(BASE One税理士法人 共同代表CEO)


目次

前半テーマ:IPOの値段はどうやって決まるのか

公募価格は「会社が勝手に決めている」わけではない

新規上場(IPO)の際に設定される公募価格。この価格はどのようなプロセスで決まるのでしょうか。脇本氏の答えは明快でした。

脇本:IPOの価格というのは会社が勝手に決めているわけではないんです。会社と主幹事証券会社、それから投資家、この3者の考え方をある意味調整しながら決まる価格なんですね。

まず会社側の視点。当然、少しでも高く評価してほしいと考えます。同業他社の株価やPER(株価収益率)などを参考にして「うちの会社はこれぐらいだよね」と企業価値を見積もります。

しかし、その価格がそのままIPO価格になるわけではありません。

ここに「引受」という、意外と知られていない仕組みが存在します。

📌 用語解説:引受(アンダーライティング)とは
IPOの際、主幹事証券会社が発行会社から株式を買い取り、それを投資家に販売する仕組みのこと。証券会社は「仕入れて売る」という構造上、売れ残りリスクを負う。このリスクを織り込むため、引受価格は市場で想定される評価額より低めに設定されるのが一般的。

証券会社は「スーパーの仕入れ」と同じ発想で考える

脇本:スーパーマーケットでも100円でお客さんに売る商品は、当然100円では仕入れないですよね。利益も必要です。売れ残るリスクもあります。IPOでも同じで、証券会社は引き受けた株式が売れ残るリスクを背負っているんですね。なので、市場で評価される価格より一定程度低い価格で引き受けたいとなるわけです。

そして投資家側にも、同じ論理が働きます。

脇本:IPO株を買えば、上場日の初日から市場で売買できるわけですね。もし初日に100円になる株のIPO価格が同じ100円だったら、IPOで申し込む必要は全くない。市場で買えばいいわけです。値上がりが期待できるから投資家は申し込む。なので、IPO価格というのは、初日に市場で評価されるであろう価格よりも、ある程度低く設定されるのが普通なんですね。

「会社は高く売りたい」「証券会社は安く仕入れたい」「投資家は値上がり余地が欲しい」——この三者のバランス点こそが公募価格の正体です。

「同業他社のPER比較」だけでは価格は決められない

浜田:よく言われる同業比較だけでは価格は決められないということですね。

脇本:同業他社のPERを見て企業価値を計算しましたというのがあるんですけれども、もちろん参考にはなります。だけど、すでに上場している同業他社の株価と、これから初めて市場に出てくるIPOでは条件が全く違うわけですね。同業他社の株価は参考にしかならない。IPO価格は、そこから証券会社が背負うリスクや、投資家が期待するリターンも考慮しないといけないということなんです。

では最終的に何が価格を決めるのか。脇本氏は「やはり最後は投資家です」と言い切りました。

脇本:投資家が見るのは、その会社の成長性、ビジネスの市場規模、本当に競争力はあるのか、そういったことを総合的に見て価格を考えます。経営者は自分の会社の将来を当然一番信じているわけです。ところが投資家は、投資のリスクや景気の状況、競争環境なんかも見る。同じ会社でも経営者が考える価値と投資家が考える価値は違って当然なんですね。

「IPO価格は会社の価値そのものではない」

前半の結論として、脇本氏はこの言葉を強調しました。

脇本:私はよく、IPO価格は会社の価値そのものではないですよと説明しています。

会社が考える価値と、証券会社が背負うリスク、投資家が期待する将来性、この3つのバランスの上にIPO価格は決まる。IPO価格は会社の価値そのものではなくて、市場への最初のまさに入り口の値段ということになるんですね。

さらに番組の最後で、脇本氏は「初値」に関する重要な補足をしました。

脇本:初値がつくというのは、実は企業価値で決まるというよりは、需給関係で決まるわけですね。売り手が少ないんですよ。既存株主しかいないですから。ところが買いたい人は全国にいっぱいいる。この構造が初値を企業価値より高めにいってしまう可能性もあるということなんです。

「初値高騰=良い会社」とは限らない——IPO投資をする上で、この需給構造の理解は必須の知識です。

📌 過去放送との文脈リンク
2026年6月25日放送(脇本源一氏)では「日本のIPO市場は衰退ではなく役割分担——グロースは選抜市場へ、TPMは育成市場へ」という構造変化が解説されました。今回の「IPO価格の決まり方」はその実務編とも言える内容です。「主幹事証券が最初の選別者」という前回の指摘と、「証券会社は売れ残りリスクを背負って引き受ける」という今回の解説を重ねると、なぜ主幹事が慎重になるのか、その経済的な理由が明確になります。

📌 投資視点まとめ

  • IPO公募価格は「会社・証券会社・投資家」三者のバランスで決まる調整価格
  • 公募価格は市場想定価格より低めに設定されるのが構造上自然(だからIPO投資に妙味が生まれる)
  • 初値は企業価値ではなく需給(売り手少数×買い手多数)で決まる——初値高騰を過大評価しない
  • 「公募価格が安い=会社の価値が低い」ではない
  • 同業PER比較は参考値にすぎず、成長性・市場規模・競争力の総合判断が本質

フィリップ証券からのお知らせ

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フィリップ証券では、ネット取引が苦手なお客様にも、営業スタッフによる対面でのお取引が可能です。日本株・米国株はもちろん、シンガポール株などアジア株式・外債・私募投資など幅広い金融商品を取り扱っています。資産運用だけでなく相続手続きなど、ライフステージに寄り添ったご提案も可能です。「ここがわからない」「こんな商品はないか」というご相談は、お気軽に営業スタッフへ。

当社が取り扱う商品等には、価格変動等により元本損失・元本超過損が生じるおそれがあります。投資にあたっては、契約締結前交付書面等を必ずお読みください。フィリップ証券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第127号


後半テーマ:M&Aの値段はどうやって決まるのか——番組初登場・坂上康介氏

M&Aは「相対取引」——IPOとの根本的な違い

後半は番組初登場となるBASE One税理士法人共同代表CEO・坂上康介氏が登場。公認会計士・税理士として、金融機関等で10年以上M&Aアドバイザリー業務に携わってきた実務家です。

M&Aにおける企業価値の考え方は、IPOとどう違うのでしょうか。

坂上:M&Aは最終的には売り手と買い手の相対取引になります。また、多くの場合、会社の経営権が移る取引になります。買い手はその会社の経営を引き継ぐことになりますので、単に安く仕入れて高く売るというような話ではなく、買い手はその会社を引き受けた後、自社の傘下でどれだけの価値を生み出せるか、そこを見て企業価値を考えます。

ここから導かれる重要な帰結がこれです。

浜田:同じ会社でも買い手によって企業価値が変わることもあるのでしょうか。

坂上:その通りです。例えば、買い手が自社の販売網を生かしてその会社の売上をもっと伸ばせる、あるいは両社で仕入れを一本化することでコストを下げて利益を増やせる、そういったシナジーが見込める買い手にとっては、同じ会社でもより高い企業価値になることがあります。

📌 用語解説:シナジー(相乗効果)とは
M&Aにおいて、買収する側とされる側が統合することで「1+1が2以上になる」効果のこと。販売網の相互活用による売上増(売上シナジー)、仕入れ・管理部門統合によるコスト削減(コストシナジー)などがある。同じ会社でも「どんなシナジーを実現できる買い手か」によって適正価格が変わるのはこのため。

デューディリジェンス——買収前の「精密検査」

買い手はどうやって対象会社の価値を確認していくのか。坂上氏はM&Aの実務プロセスを整理しました。

坂上:M&Aでは最初からすべての情報が開示されるわけではございませんので、まずは会社の概要や成績などを見て、初期的に価格を検討します。その後、売り手と買い手の大まかな目線が合えば、デューディリジェンス、つまり買収前の詳細な調査に進みます。そこで買い手は売上や利益の中身、契約関係、将来のリスクなどを確認します。その調査結果を踏まえて、最終的な価格や条件をすり合わせていくという流れです。

📌 用語解説:デューディリジェンス(DD)とは
M&Aの最終契約前に行われる、買収対象企業の詳細調査のこと。財務DD(決算書の中身・簿外債務の確認)、法務DD(契約関係・訴訟リスク)、ビジネスDD(事業の競争力・市場性)、税務DDなど多角的に行われる。「買ってから隠れた問題が発覚する」リスクを防ぐ、M&Aプロセスの心臓部。

価格交渉の駆け引き——入札と独占交渉

浜田:価格を決める場面では駆け引きのようなものもあるんでしょうか。

坂上:売り手の立場ではできるだけ高く売りたい。一方で買い手の立場では投資対効果を考えますので、初期投資はできるだけ抑えたい。

例えば売り手側から見ると、複数の買い手候補に参加してもらう入札プロセスにすれば、買い手同士の競争環境によって売却価格が上がる可能性があります。一方で買い手側から見ると、できれば他の買い手と競争せずに独占的に交渉したいと考えることが多いです。

さらに坂上氏は、買収価格の決定における「バリューアップ分の分配」という高度な論点にも触れました。

坂上:買い手は買収後にバリューアップできると考える部分も企業価値を考える上では見ます。ただし、そのバリューアップ分をどこまで買収価格に反映するかはケースバイケースです。買い手としては、自分たちが買収後に努力して生み出す価値まですべて価格に織り込んでしまうと、投資としての魅力が下がってしまいます。M&Aの価格は単に計算結果だけでなく、売り手と買い手の立場、競争環境、そして買収後の価値の分け方によって決まってくると考えるとわかりやすいと思います。

つまり「この会社にはこれくらいの価値がある」という評価と「実際にいくらで買収するか」は別の話。買収後に自分たちが生み出す価値をどこまで売り手に「先払い」するか——この配分こそがM&A交渉の核心というわけです。

「M&Aは契約がゴールではなくスタート」

坂上氏が最後に強調したメッセージは、M&Aニュースの見方を変えるものでした。

坂上:今日追加でお伝えしたかったのは、M&Aは会社をいくらで買うかだけではないということです。

買収価格はもちろん大切なんですけれども、それ以上に大切なのは、買収した後にその会社の価値をどれだけ高められるかというところです。M&Aは契約がゴールではなく、むしろそこがスタートですので。皆さんもM&Aのニュースをご覧になるときは、高く買った・安く買っただけでなく、この買収で将来どれだけの企業価値が高められるのか、そういった視点で見ていただくと、また違った見え方になるのかなと思います。

📌 過去放送との文脈リンク
2026年7月2日放送(三角友幸氏)では「M&Aの理論——不完全契約理論・垂直統合と水平統合・コングロマリットディスカウント」という理論編が解説されました。今回の坂上氏の解説はその実務編に相当します。理論編で学んだ「なぜ契約ではなく買収を選ぶのか(コントロール権)」という視点と、実務編の「買収後のバリューアップこそが本番」という視点を重ねると、M&Aという企業行動の全体像が立体的に理解できます。2週連続でM&Aを扱ったこの2回は、セットで読み返す価値があります。

IPOとM&A——「値段の決まり方」の決定的な違い

番組終盤では、前半の脇本氏が再登場し、IPOとM&Aの価格決定の違いを総括しました。

脇本:IPOの値段は、上場してマーケットでどう評価されるかを想定して、そこから割り引いて考えていく。ただ、初値は企業価値というより需給関係で決まる。売り手は既存株主しかいない一方、買いたい人は全国にいっぱいいる。M&Aの場合は売り手と買い手が一人ずつですから、これが価値を決める上で大きな違いになってくると思うんですね。

比較項目IPOM&A
取引形態不特定多数への売り出し売り手・買い手の相対取引
価格決定者会社・証券会社・投資家の三者調整売り手と買い手の交渉
価格の性質市場評価の「入り口の値段」買い手ごとに異なる「シナジー込みの値段」
初値/最終価格需給で決まる(高騰しやすい構造)DD・交渉・競争環境で決まる
経営権移転しない(分散保有)移転する

📌 投資視点まとめ

  • M&Aの企業価値は「買い手によって変わる」——シナジーの大きさが価格差を生む
  • 入札プロセスは売却価格を上げ、独占交渉は買い手有利に働く
  • 買収価格には「買収後のバリューアップ分をどこまで先払いするか」という配分問題が含まれる
  • M&Aニュースは「高い・安い」ではなく「買収後に価値を高められるか」で評価する
  • 事業承継を考える経営者にとっても、この価格決定構造の理解は必須知識

まとめ:「値段」と「価値」は違う——投資眼を磨く本質的視点

前半のIPO解説と後半のM&A解説。今回の放送を貫くメッセージは「値段(プライス)と価値(バリュー)は違う」という投資の最重要原則です。

IPOの公募価格は三者調整の産物であり、会社の価値そのものではない。初値は需給の産物であり、企業価値の証明ではない。M&Aの買収価格は交渉と競争環境の産物であり、同じ会社でも買い手によって変わる。

つまり、市場で目にする「値段」はすべて、何らかの構造やプロセスを経て形成された結果であって、本質的な価値と一致しているとは限らないということです。この「値段の裏側にある構造」を理解している投資家と、値段だけを見ている投資家では、同じニュースを見ても得られる情報量が全く違います。

先週(7月2日放送)の「株価はバランスシートの右側を見ている」という三角氏の解説、先々週(6月25日放送)の「グロース市場の選抜化」という脇本氏の解説と合わせて、この夏のファイナンシャル・ジャーニーは「企業価値とは何か」を多角的に学べる貴重なシリーズになっています。

「投資がわかると意識が変わる。意識が変わると世界が変わる。」

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よくある質問(FAQ)

Q1. IPO株の抽選に申し込むのは有利な投資なのですか?
A. 脇本氏の解説の通り、公募価格は構造上「初日に市場で評価されるであろう価格より低め」に設定される傾向があります。この意味でIPO投資には統計的な妙味があるとされます。ただし、すべての銘柄で初値が公募価格を上回るわけではなく、公募割れのリスクも存在します。銘柄ごとの成長性・需給を見極めることが重要です。

Q2. 初値が高騰した銘柄は買うべきですか?
A. 初値は「売り手が既存株主のみ・買い手は全国」という需給の偏りで形成されるため、企業価値以上に高騰しているケースがあります。初値高騰銘柄への飛び付き買いは、その後の株価調整で損失を被るリスクが高い投資行動の一つです。落ち着いた後の業績と株価のバランスを見てから判断するのが賢明です。

Q3. 中小企業の事業承継でもM&Aの価格はこの放送の通りに決まりますか?
A. 基本構造は同じです。売り手と買い手の相対交渉、シナジーの見込み、デューディリジェンス、競争環境(入札か独占交渉か)によって価格が決まります。事業承継M&Aでは特に「後継者不在の解決」という価格以外の価値も重要な要素になります。専門家(M&Aアドバイザー・税理士等)への早期相談が推奨されます。

Q4. デューディリジェンスで価格が下がることはありますか?
A. あります。DDで簿外債務・訴訟リスク・主要取引先の契約問題などが発見された場合、当初の想定価格から減額されたり、最悪の場合は取引自体が中止になることもあります。売り手側にとっては、事前に自社の課題を整理しておく(セルサイドDD)ことが、スムーズな売却と価格維持につながります。

Q5. フィリップ証券はIPOの主幹事業務を行っていますか?
A. フィリップ証券は上場支援業務を手がけており、脇本氏が本部長を務める投資銀行本部がIPO関連業務を担当しています。IPOを検討する企業向けの支援に加え、投資家向けのIPO株取り扱いについては公式サイトまたは営業スタッフへお問い合わせください。


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