2026年7月、ドル円は162円台へじりじりと進行しながら、39年半ぶりの円安水準に迫っています。
介入らしき動きはまだない。でも、「そろそろ今週来週は注意が必要」とプロは警戒を強めています。
前半はフィリップ証券リサーチ部・三角友幸氏が、東証改革や海外ファンドの圧力で注目が集まる企業再編(M&A・選択と集中)の理論的背景を解説。コングロマリットディスカウント・垂直統合vs水平統合・不完全契約理論まで、投資判断に直結する経営学の核心を噛み砕きます。後半はアセンダント取締役・山中康司氏が、為替介入の判断基準・テクニカルの節目・水星逆行という異色の視点まで交えながら、ドル円相場の次の動きを読み解きます。
🎙 番組概要
番組名:投資がわかると意識がかわる!「ファイナンシャル・ジャーニー」
放送日:2026年7月2日(木)
提供:フィリップ証券(ユアパートナー・イン・ファイナンス)
パーソナリティ:浜田 節子 氏
コメンテーター:
前半:三角 友幸 氏(フィリップ証券 リサーチ部)
後半:山中 康司 氏(アセンダント 取締役)
前半テーマ:M&A・企業再編の理論——なぜ企業は「切り離し」「くっつき」を繰り返すのか
東証改革が突きつけた問い——「コングロマリットディスカウント」とは何か
東証の改革要請・海外アクティビストファンドからの圧力を受け、日本企業の間で政策保有株の売却や事業の選択と集中が加速しています。
この動きの根底にある概念が「コングロマリットディスカウント」です。
浜田:こうした企業の切り離しや買収への要求は、何を表しているのでしょうか?
三角:一つはコングロマリットディスカウントの解消であると考えられます。
これは市場の評価の話であって、必ずしもオペレーション上での非効率性を示す言葉ではありません。持ち株体制をとっている会社でも、個々の企業がうまくいっているケースは結構あります。
📌 用語解説:コングロマリットディスカウントとは
複数の異なる事業を抱える複合企業(コングロマリット)の株式が、それぞれの事業を個別に評価した合計額よりも低く評価される現象。原因は①アナリストが分析しにくい②投資家が事業ポートフォリオを自分でカスタマイズできない③経営資源の最適配分がされにくい——など。解消策として事業の分社化・売却・スピンオフが求められる。
そして三角氏が指摘した本質的な視点がこれです。
関連性のない複数企業からなる分散ポートフォリオをとってリスクを分散するというのは投資家がやればよくて、経営者は金融市場では複製できない付加価値を創出するべきだという考えです。
つまり「分散」は投資家の仕事、「集中」こそが経営者の仕事——という発想の転換を迫っているわけです。
垂直統合の「罠」——内製化は本当に効率的か
三角氏はまず垂直統合(内製化・サプライチェーンの上下をつなげる戦略)について、一般的な認識とは異なる見方を示しました。
三角:内製化というのは実は言われているほど効率化や合理化に寄与しないという問題があります。材料・部品の調達、製造、運搬、保管といった費用は、一直線の生産工程の中で削減することが難しくて、自社で賄っても外注してもあまり変わらないということがあります。外注費用そのものが市場メカニズムですでに合理的な水準になっているからです。
この説明に、三角氏は身近な比喩を添えました。
三角:私は学生の頃、あるショッピングモールの最寄でバイトに入ったことがあるんですね。
そのショッピングモールの社員食堂を利用できたんですけれども、その社員食堂のかけうどんよりも、同じモールに入っているうどんチェーン店の方が味も値段も良かったということがありました。
社員相手に限られた時間しか営業しない社員食堂よりも、一日に数百人分のうどんをさばくようなチェーン店の方がスケールしやすく、コストパフォーマンスも良くなったということなんですね。
三角:TSMCは素材も製造装置も自社では作らずに、これらを外注しながら、市場にある技術をうまく組み合わせて最先端半導体の歩留まりを向上させるエンジニアリングにそこに注力した企業です。
また、垂直統合を志向していたインテルが凋落し、製造を委託していたAppleやNVIDIAがスマートフォンやAI向けの先端半導体の主流になったことからも、歴史的には分業こそが正しかったと言えます。
📌 過去放送との文脈リンク
2026年6月11日放送(三角友幸氏)では「NVIDIAの優位はカスタムチップに置き換えられるのか」というテーマで「置き換えではなく補完関係」という分析が示されました。今回の「TSMCが分業で世界制覇、インテルが垂直統合で凋落」という解説は、その延長線上にある視点です。半導体業界における「分業の勝利」という大きな構造を、6月11日放送と今回の放送を合わせて読むことで立体的に理解できます。
「中間マージンを払わなくて済む」は本当か
浜田:内製化することで中間マージンを支払わなくて済むとよく言われますが、いかがですか?
三角:マージンが非常に高い場合、それは企業努力の結果であって、自動的に生まれるものではありません。
もしその企業が要求する中間マージンが相当に超過収益を含んでいれば、そのおいしさを狙って多くの企業が後から参入してくる。すると価格競争によってその超過収益は消失してしまいます。そうならないのは、模倣することが難しい何らかの便宜があって、それが高いマージンの根拠になっているケースです。
そういったノウハウを社内で複製することも難しいですし、買収しようにも多額の値札を払う可能性がある。そのまま外注していた方が良いということになるわけです。
M&Aの合理性はどこにあるのか——「不完全契約理論」という武器
では、内製化が必ずしも有効でないとすれば、M&Aを行う合理的な理由はどこにあるのでしょうか。
三角:基本的には、協業先に対してどの程度コントロールを利かせたいかというところで選びます。
業務提携・資本提携・ジョイントベンチャー・持ち分法・完全子会社化という段階がある中で、契約書では将来起こり得る不測の事態や相手の裏切りをすべて予測して盛り込むことはできません。相手企業の株式を取得して所有権を有してしまった方が、後々融通を利かせやすいというメリットがあります。こういった意思決定の理論的根拠を不完全契約理論と呼びます。
📌 用語解説:不完全契約理論とは
経済学者のオリバー・ハート氏(2016年ノーベル経済学賞)らが発展させた理論。「将来起こりうるすべての事態を予測して完全な契約を結ぶことは不可能」という前提に立ち、不完全な契約環境下では「資産の所有権(コントロール権)」を誰が持つかが重要になると説く。M&Aの合理性(なぜ契約ではなく買収を選ぶのか)を説明する重要な理論的枠組み。
水平統合とシナジー——「同じポジション同士がくっつく」効果
一方で水平統合(サプライチェーン上の同じ位置にある企業同士の統合)は、コスト合理化の効果が出やすいと三角氏は言います。
三角:製品群や顧客が重複しているような企業同士がくっつく場合、顧客管理・営業回りといった業務の重複分を統合・削減することが図りやすくなります。
これは市場からも共感されやすい傾向にあります。ただし、独占禁止法に抵触して頓挫するというのがリスクです。
優良事業を手放す理由——株価は「資産の左側」ではなく「右側」を見ている
スターバックスによる日本事業売却検討の報道なども引き合いに出しながら、三角氏は「なぜ優良事業を売るのか」という問いに答えました。
三角:優良な企業である方が値段がつきやすいという事情があります。
赤字の負債事業はなかなか買い手がつかない一方で、優良な事業であれば比較的早く買い手が見つかります。売却によって得た資金を配当などに還元しつつ、残された不良企業の再建に注力する、それこそが現経営陣の存在意義とも言えるわけです。
そして株式評価の本質についてこう整理しました。
三角:株価というのは、企業のバランスシートの左側(資産側)を見ているわけではなくて、右側(負債・資本側)の評価を反映したものです。
今いくら現金を持っているとか優良資産を抱えているということは株価に直接関係なくて、それをもって将来いくら払えるかが問われているわけです。
📌 投資視点まとめ
- コングロマリットディスカウント解消要求は「分散は投資家の仕事、集中が経営者の仕事」という哲学に基づく
- 垂直統合(内製化)は一般に思われているほど効率化に寄与しない——TSMCとインテルの対比が証明
- M&Aの合理性は「コントロール権の確保(不完全契約理論)」と「水平統合によるコスト合理化」に求められる
- 優良事業の売却は「買い手がつきやすい」「残事業の再建資金確保」という経営合理性がある
- 株価は資産(バランスシート左側)ではなく「将来の配当支払い能力(右側)」を見ている
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後半テーマ:ドル円162円台——為替介入はいつ入るのか

39年半ぶりの円安、それでも介入が来ない理由
放送時点(7月2日)のドル円は162円50〜57銭台。前回の為替介入(4月30日)からほぼ1ヶ月が経過し、その間に約2円50銭の円安が「じりじりと」進行しています。
山中:今のところ動きが鈍いということもあって、東京の人たちも一部では損切っている人もいるんでしょうけれども、比較的まだドルの売りポジションを持ったまま、一方で海外の投機筋はドル買いのポジションを持ったまま、結構綱引き状態が続いているという感じですね。
それでも介入が来ない最大の理由として山中氏が挙げたのが、2024年の神田前財務官の発言です。
山中:介入するかどうかの判断基準は水準ではなく過度な変動だということで、今回のケースで言うならば、162円や163円という水準で介入するのではなく、もしこれが急に162円から164円までボンと円安が進むような動きが出てくれば、それは介入するのかなという意味合いで取っている人が結構多いんじゃないかと思いますね。
「緩やかな円安」は介入条件を満たさない——という市場コンセンサスが形成されているわけです。
📌 用語解説:インプライドボラティリティとは
オプション市場の価格から逆算される「市場参加者が予想する将来の価格変動率」のこと。ボラティリティが低いほど市場は「穏やかな相場が続く」と予想していることを示す。緩やかな一方向への動きはボラティリティを低下させ、「介入条件(過度な変動)」から遠ざかるという逆説的な状況が生まれる。
テクニカル分析で見るドル円の節目——「青天井」に近い状況
現在の162円台から先のテクニカルな節目はどこか。山中氏の回答は明快でした。
山中:テクニカルにはもう基本的にほぼ青天井というわけじゃないんですけれども、何しろ近くに節目がない。
1985年のプラザ合意前につけた高値262円80銭と2011年の安値75円58銭の半値戻しが169円19銭、切りのいいところで170円が一つの節目になるのかなということです。
それを超えると固定相場の360円と75円58銭の38.2%戻しで184円というようなところなんですが、テクニカルにははっきり言ってすぐ近いところにターゲットはない。
| 水準 | 根拠 |
|---|---|
| 169円19銭 | 1985年高値262円80銭と2011年安値75円58銭の半値戻し |
| 170円 | 上記の切りのいい節目 |
| 184円 | 固定相場360円と2011年安値の38.2%戻し |
現在の162円台から170円まで約8円、184円まで約22円——と近い節目がほとんどない状況が、円安進行を止めにくい環境を作っています。
「日柄」で読む——次の介入タイミングはいつか
山中氏は過去の介入パターンとの比較から、「日柄」という時間的な視点で次の介入を予測しました。
山中:2024年の介入と今回2026年の介入は、一回目がゴールデンウィーク前後というのが共通していて、2024年の時には一回目と二回目の介入の間に約2円の円安が進みました。
前回2024年では3営業日目ごろに二度目の介入が入っている。今回4月30日に最初に介入が入ったわけなんですが、最初の介入からの2円ほどの円安という水準はすでに到達しているわけなので、日柄的なことを考えると、ちょっとそろそろ今週来週というのは注意が必要なんじゃないかと思いますね。
「水星逆行」という異色の視点——プロが気にする理由
山中氏が最後に触れたのが「水星逆行」という、一見投資と無縁に思えるアストロロジー(占星術)的な指標です。
山中:水星逆行、6月30日から7月24日で大体3週間程度なんですけれども、影響としてはボラティリティの上昇と、チャートポイントが効きにくくなるという傾向があって、特に逆行の最初の一週間(今週)はドル円で上下に振れやすくなる。
しかも今週末はアメリカ独立記念日で金曜日が休み、今日は短縮取引。そして雇用統計もある。
なので、なんとなく大きく振れるかなということで、場合によっては動きによっては介入もあるかなと考えていいんじゃないでしょうか。
「水星逆行」を真剣に語るプロのトレーダーは少なくありません。「信じるかどうかより、市場参加者の多くが意識していれば値動きに影響する」という自己実現的な側面があるからです。
山中:介入が入ったとしても、今度は円が下値になっちゃいそうなんですけれども、とりあえず介入が出たら買い戻していいと思います。
📌 過去放送との文脈リンク
2026年4月2日放送では「ドル円160円を前にした三村財務官の断固たる措置発言による介入警戒」、4月30日放送では「ドル円160円突破直後に実際に断行された介入の舞台裏」が解説されました。今回の「162円台でもまだ来ない介入」という状況は、これら二回の放送と合わせて読むと「なぜ今回は介入が遅れているのか」という疑問への答えが明確になります。判断基準が「水準」から「変動速度」へとシフトしたという認識の変化が、トレーダーの行動様式を変えているのです。📌 投資視点まとめ
- 介入の判断基準は「水準」ではなく「過度な変動(急速な動き)」——緩やかな円安は介入条件を満たしにくい
- 直近のテクニカル節目は169〜170円、その先は184円と遠く「青天井に近い」状況
- 日柄パターン(2024年と2026年の類似性)から今週来週が注意タイミング
- 米国独立記念日(短縮・休場)+雇用統計+水星逆行の重なりでボラティリティ上昇に注意
- 「介入が入ったら買い戻し」というプロの基本スタンスは変わっていない
まとめ:「構造を理解する」ことが激動相場の羅針盤になる

前半の企業再編理論と後半の為替介入分析。一見テーマが異なる二つの解説に共通するのは、「表面の現象ではなく、その背後にある構造と論理を理解する」という視点です。
「M&Aが増えている」という現象の背後には、コングロマリットディスカウント解消・不完全契約理論・水平統合のシナジーという論理的な構造がある。「介入が来ない」という現象の背後には、「変動速度が判断基準」という政策当局の論理と、「日柄パターン」というプロの読み方がある。
どちらも「なぜそうなっているのか」を理解した上で行動できる人と、「何が起きているか」だけを追いかける人では、投資の精度が根本的に違ってきます。
これほどまでに激動し、予測不可能な相場環境において、フィリップ証券の誇る高機能プラットフォーム「MT5」による自動売買(EA)を活用し、システムに冷静な取引を任せるのが、これからの「投資の旅(ジャーニー)」をサバイブする鉄則です。
よくある質問(FAQ)
Q1. コングロマリットディスカウントが解消されると株価はどうなりますか?
A. 一般的には株価の上昇要因になります。持ち株構造の解体・事業の分社化・政策保有株の売却などによって「隠れた価値」が表面化し、株価が純資産や類似企業比較に近づく方向に動くとされています。東証改革はこの解消を日本企業全体に促しているという意味で、日本株全体の価値向上に寄与する動きです。
Q2. 為替介入はいつごろ実施される可能性がありますか?
A. 山中氏の分析によれば、日柄パターン(前回2024年との類似性)から7月上旬〜中旬が注意タイミングとされています。ただし介入の有無・タイミングは当局の専権事項であり、確実な予測は不可能です。「急速な変動が起きた際に介入が来る」という基本スタンスを持ちつつ、ポジション管理を行うことが重要です。
Q3. ドル円が170円を超えた場合、次の節目はどこですか?
A. 山中氏は「固定相場360円と2011年安値75円58銭の38.2%戻しである184円」を次の節目として挙げています。170円から184円まで14円程度の幅があり、テクニカルな抵抗が薄い領域となります。
Q4. 水平統合と垂直統合、投資家はどちらを好意的に評価する傾向がありますか?
A. 三角氏の解説によれば、水平統合(同業同士の統合によるコスト合理化)の方が「市場から共感されやすい傾向がある」とのことです。垂直統合(内製化)はコスト削減効果が限定的な場合が多く、投資家の評価を得にくいケースがあります。
Q5. フィリップ証券でFX(ドル円)の取引はできますか?
A. MT5口座でドル円をはじめとする主要通貨ペアのFX取引が可能です。山中氏のような為替プロの分析をラジオで学びながら、フィリップ証券のMT5で実践に活かすことができます。デモ口座から始めることもできます。
