今週のファイナンシャル・ジャーニー(2025年12月4日放送)実質金利で読む日本国債とFOMC・日銀後の為替戦略

12月4日放送の「ファイナンシャル・ジャーニー」は、前半が「実質金利と期待インフレ率で読み解く日本国債」、後半が「FOMCと日銀会合をにらんだドル円・金利見通し」という、まさに“金利と為替の旅”というべき内容でした。

長期金利が1.89%まで上昇する中で、日本経済にとってそれは本当に「高すぎる金利」なのか。

さらに、利下げを急ぐアメリカと、利上げに踏み出そうとする日本という「すれ違う金融政策」が、為替市場にどんな波風を立てていくのか。

番組の空気感を残しながら、投資家目線でのヒントも交えて振り返っていきます。


番組概要

番組名:ファイナンシャル・ジャーニー
放送日時:毎週木曜日 8:30〜8:49
放送局:ラジオNIKKEI第1(radikoタイムフリー対応)
提供:フィリップ証券
出演者:
浜田 節子(フリーアナウンサー/パーソナリティ)
笹木 和弘(フィリップ証券 リサーチ部長)
山中 康司(アセンダント 取締役)


目次

はじめに:今週の聴きどころ

今週のポイントは大きく二つです。

1つ目は、笹木和弘さんが解説した「実質金利と期待インフレ率」。

同じ「10年国債利回り1.8%台」という数字でも、「実質金利」と「期待インフレ率」に分解して見ると、景気への効き方も、債券投資の妙味もまったく違って見えてくるという話でした。

2つ目は、山中康司さんによる「12月FOMCと日銀会合の行方」。

市場はほぼ“利下げ確定”と見ているFOMC、一方で“12月利上げもあり得る”と見られ始めた日銀。日米の金利政策が分かれ始める中で、ドル円相場はどこへ向かうのか──。

構造テーマとしては、前半・後半ともに「実質金利」が一本の線として貫かれています。

それでは、前半の笹木さんパートからたどっていきましょう。


実質金利と期待インフレ率で読み解く日本国債

名目金利だけ見ても“金利の本当の姿”はわからない

番組は、補正予算決定のニュースからスタートしました。

浜田「政府は11月28日に2025年度の補正予算案を閣議決定しました。

一般会計の総額は18兆円超、国債の追加発行も11兆円台に上るということですが、その影響もあってか、長期金利が12月3日に1.89%まで上昇しました。

心理的節目の1.9%に迫る水準ですが、日本経済の現状から見て、この水準は“高すぎる金利”と言えるんでしょうか?」

笹木「2008年6月以来という数字だけ聞くと『随分高くなったな』という印象を持たれがちですが、日本経済の状況を考えると“必ずしも高すぎるとは言えない”というのが私の見立てです。」

ここで笹木さんは、話を一段階噛み砕いてくれます。

笹木「まず、金利は大きく“名目金利”と“実質金利”に分けて考える必要があります。

新聞で目にする1.8%だ、1.9%だというのは、あくまでも物価変動を含んだ“名目金利”。これに対して、物価上昇の影響を取り除いた金利が“実質金利”です。

そして、その物価の上昇分には将来への期待が含まれますから、“期待インフレ率”という考え方が出てきます。

ざっくり言えば、名目金利=実質金利+期待インフレ率。この二つに分解して見ることで、金利の本当の意味が見えてきます。」

数字だけを見ると「高い」「低い」で終わってしまいがちな長期金利。

そこに「期待インフレ率」というレンズをかけることで、実体経済への効き方をより精度高く測れる、というのが今回の出発点です。

物価連動国債が教えてくれる“実質金利”

実質金利はどうやって測るのか。

ここで笹木さんが持ち出したのが「物価連動国債」です。

笹木「日本には、物価の動きに合わせて元本や利息が増減する“物価連動国債”があります。

10年などの期間で発行されていて、この利回りが実質金利の指標になるんですね。

たとえば、10月1日時点での10年物価連動国債の利回りは0.1%前後と見られます。一方で同じ日の10年国債の名目利回りは1.875%程度でした。ということは、10年間の平均的な期待インフレ率は、1.875%(名目)−0.1%(実質)=1.775%になる、という計算です。」

日銀は中長期的な物価上昇率の目標を「2%程度」としています。

それに対して、市場が織り込んでいる期待インフレ率が約1.8%。

笹木「日銀の2%目標にかなり近い水準まで、市場の期待インフレ率が上がってきたと評価できます。そして実質金利も0.1%と、ほぼゼロ近辺。ここがポイントなんです。」

実質金利“ゼロ近辺”は、景気にとっての中立水準

では、実質金利がゼロ近辺にあることは、経済にとってどんな意味を持つのでしょうか。

笹木「実質金利がマイナスの時は、名目金利よりもインフレ率の方が高い状態です。

貯蓄をしてもインフレに負けてしまうので、“お金を借りて投資や消費に回した方が得だ”というインセンティブが働きます。つまり、経済を強く刺激する方向に効きます。

逆に、実質金利が大きくプラスだと、お金を借りるよりも預金して金利を受け取る方が合理的になりますから、お金が実体経済に回りにくくなって景気を冷やす方向に働きます。

その点で言うと、実質金利がゼロ近辺というのは、“景気に対して中立的な水準”。過度に刺激することもなければ、必要以上に冷やしもしないバランスの良い位置と言えます。」

つまり、10年金利1.8〜1.9%という数字だけ見ると“高くなった”ように映りますが、

実質金利にまで分解すると「日本経済にとって中立的な水準に落ち着いてきた」とも読める、というわけです。

5年金利が示す「依然として強い金融緩和」

ただし、これはあくまで「10年」ゾーンの話。

笹木さんは「短い年限では話が少し変わってくる」と指摘します。

笹木「同じ12月1日の時点で、5年国債の名目金利は1.38%くらい。一方で、5年物価連動国債の利回りはマイナス0.8%前後です。

ですから、期待インフレ率は1.38%−(−0.8%)=2.18%程度。日銀が掲げる2%目標を上回っている計算になります。

つまり、中期ゾーンでは“実質金利がマイナス”、しかもその絶対値がわりと大きい状態がまだ続いている。

これは、日銀が依然として強めの金融緩和スタンスを続けていることの表れと言えます。」

10年ゾーンは中立水準に近づきつつある一方で、5年ゾーンでは“まだかなり緩和寄り”。

このアンバランスは、「今後の金融政策正常化の余地」とも読めます。

笹木「5年金利についても、いずれは10年金利と同じように、期待インフレ率が2%近辺に収まり、実質金利がゼロ近辺に近づいていくのが望ましい姿です。

その意味では、日銀が金融正常化という観点から利上げを行っていくことは、市場が示している金利水準から見ても、ある程度正当化されるのではないかと考えています。」

個人投資家にとっての“超長期債ロールダウン”という視点

ここから話題は「超長期債の投資妙味」へと移ります。

笹木「一般に、長くお金を貸せば貸すほどリスクプレミアムが必要なので、期間が長いほど利回りは高くなるべき、という考え方があります。

そこに加えて、日本では財政の悪化リスクも意識されやすいので、超長期ゾーンの利回りはどうしても高くなりがちです。

ただし、実質金利がゼロ近辺で、日銀の物価目標が2%に据え置かれると仮定すると、長い目で見れば“2%を意識したフラットな利回り曲線”に近づいていくだろう、という見方もできます。」

ここでキーワードとして出てきたのが「ロールダウン」あるいは「ローリング効果」です。

笹木「たとえば30年債を買ったとします。時間が経てば残存年数は29年、28年と短くなっていきますよね。

もし長期的に“年限が短くなるほど利回りが低くなる”形の利回り曲線であれば、保有しているだけで“利回りの低いゾーン”へロールダウンしていきます。

利回りが下がるということは価格が上がるということですから、超長期債の投資家にとっては、このロールダウンによる価格上昇が期待できる局面があり得る、ということです。」

「金利が高いから債券は危ない」と単純に避けてしまうのではなく、

実質金利や期待インフレ率、利回り曲線の形まで含めて見ることで、「どの年限ならどんなリターンが狙えるのか」という発想が生まれてきます。

債券投資にあまり馴染みのない個人投資家にとっても、

「金利=単なる数字」ではなく「景気と資産価格をつなぐシグナル」として捉え直す良いきっかけになるパートでした。


📣 番組中盤:フィリップ証券からのお知らせ

出典:フィリップ証券

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ここから、番組はいよいよ後半の山中康司さんパートへ。


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12月FOMCと日銀会合:利下げと利上げ、そのはざまを行く為替市場

ここからはアセンダント取締役の山中康司さんが登場。

テーマは一気に「世界の金融政策と為替市場の見通し」へとシフトします。

浜田「アメリカでは利下げ観測がかなり強まってきましたね。」

山中「そうですね。ほぼ市場参加者の間では“利下げ織り込み済み”と言っていいくらいの状態になっています。」

市場は“ほぼ利下げ確定”と見るFOMC

12月10日には、今年最後となるFOMCが控えています。

山中「ポイントは二つあります。

一つは、前回FOMCの議事録(11月19日公表)の中で、“12月の追加利下げは適切ではない可能性が高い”と、多くのメンバーがコメントしていたこと。

ここで言う“多くのメンバー”という表現は、少なくとも過半数以上がその方向性に傾いていることを意味しますから、この時点では“12月は現状維持だろう”という見方がやや優勢でした。」

ところが、その2日後。

ニューヨーク連銀総裁が「インフレ目標を損なうことなく、近い将来に利下げを実施できる」と発言。

山中「これをきっかけに、一気に“利下げ方向”への期待が高まりました。

その結果、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)が公表している政策金利先物ベースの“利下げ織り込み度”は、足元ではおおよそ89%程度。ほぼ『9割の確率で利下げ』という見方になっています。」

とはいえ、「市場がそう見ている=FRB内部もそう決めている」とは限りません。

山中「ハト派のメンバーもいればタカ派のメンバーもいますし、足元の経済指標も新しい数字が揃っているわけではありません。

ADPなど民間指標では雇用の弱さが目立ちますが、肝心の雇用統計はFOMC後の16日に発表です。

前回の利上げでは“後手に回った”という批判もありましたから、今回の利下げについては“予防的に早めに動く”可能性が高いと個人的には見ています。」

日銀会合:植田総裁発言の“ニュアンスの変化”に注目

一方、日本側で注目されるのが12月19日の日銀金融政策決定会合です。

山中「実は、こちらの方がマーケットの注目度は高いかもしれません。

前回の会合後、植田総裁は“春闘の初動のモメンタムを確認したい”と発言しました。

これを素直に受け止めると、“春闘の動きが見えてくるまでは利上げはしないのかな”という印象になりますよね。

少なくとも、年内、ましてや12月の利上げはないのではないか、と。

ところが、今月1日の講演では“12月会合で利上げの是非を適切に判断する”という発言にトーンが変わっています。」

「春闘を見てから」と言っていたはずが、「12月会合で判断する」と言い始めた。

この変化をどう読むかが、マーケットの大きなテーマになっています。

山中「この間、高市首相と植田総裁の会談もありましたので、その場で何らかのすり合わせがあったのではないか、という見方も出ています。

足元では、市場の見方として“12月に利上げする可能性は8割以上”という声も多く、かなり確実視されている状況です。」

日米金利差の縮小と、それでも“円安水準”にあるドル円

ここで再び長期金利の話題に戻ります。

山中「日本の長期金利は1.89%まで上がってきています。一方で、アメリカの長期金利は利下げ観測を受けて着実に低下している。

結果として、日米10年債利回り差は2.16%台と、今年に入ってから最も低い水準に近づいています。」

日米金利差は縮小しているのに、ドル円は依然としてかなりの円安水準にあります。

山中「為替相場はどうしても短期的には投機的な動きが強くなりがちですが、金利にはある程度トレンドが出る。

日米金利差が縮小方向にあるのであれば、為替もいずれはそちらに引っ張られる形で、じりじりと円高方向に向かう可能性が高いと考えています。

150円の大台を“あっさり割り込む”とまでは言いませんが、方向感としては年末にかけて円高方向──150円割れも視野に入る──と見るのが素直ではないでしょうか。」

次期FRB議長候補と、2026年に向けた利下げペース

さらに、アメリカの金融政策を考える上で忘れてはいけないのが「次期FRB議長人事」です。

山中「今、有力視されているのがハセット氏です。比較的ハト派寄りと見られていて、トランプ大統領の方針に沿う形で政策運営をするのではないか、という見方が市場にはあります。

今回12月に0.25%利下げすると仮定すると、来年1年間でもう0.5%程度、2回の利下げがあるだろう、というのがメインシナリオになっています。具体的には、3月と6月あたりが候補でしょうか。」

利下げ方向に転じるFRBと、利上げへ舵を切ろうとする日銀。

この“逆方向の動き”がドル円にどんな影響を与えるのか。

山中「短期的にはサプライズで動く場面もあるかもしれませんが、中期的なトレンドとしては、やはり日米金利差縮小=円高方向、という流れは意識しておくべきだと思います。」


テーマを貫く一本線:「実質金利」が世界のマネーを動かす

前半は「日本の実質金利と期待インフレ率」、後半は「米利下げと日銀利上げ、日米金利差と為替」。

一見別々のテーマに見えますが、実はどちらも「実質金利」という一本の線でつながっています。

  • 日本:10年実質金利はほぼゼロ、中立的な水準に近づいている
  • 日本:5年実質金利は大きなマイナスで、依然として強い緩和スタンス
  • アメリカ:インフレ鈍化と雇用の弱さを受けて“実質金利を下げに行く”局面へ
  • 日米:金利差縮小方向にあるにもかかわらず、為替はまだ“円安側に乖離”

このギャップが、投資家にとってのチャンスの源泉にもなり得ます。

たとえば、

  • 超長期債のロールダウン効果を狙う日本国債投資
  • 日米金利差縮小を見込んだ“円高方向”の為替戦略
  • 金利テーマをFX・CFDで取りにいくためのプラットフォーム選び

など、アクションにつながる視点が随所に散りばめられた回でした。


✅ 今週の投資メモ(要点整理)

  1. 名目金利は“表の数字”、実質金利と期待インフレ率まで分解して見る
  2. 実質金利ゼロ近辺は“景気に対して中立”──過度な悲観も過度な楽観も禁物
  3. 5年ゾーンの実質金利マイナスは、日銀の強い緩和スタンスの名残
  4. 超長期債は“高金利”だけでなく“ロールダウン効果”まで含めて検討
  5. 日米金利差は縮小方向でも、為替はまだ円安側に乖離──中期的な円高シナリオを意識
  6. 12月FOMCと日銀会合は、2026年までの金利・為替トレンドを占う重要イベント

✔ 全体まとめ:金利と為替を“物語”として捉える

今週のファイナンシャル・ジャーニーから学べるのは、「金利と為替を数字の羅列としてではなく、“物語”として捉える視点」です。

  • なぜ長期金利は1.89%まで上がったのか
  • そのうち何%がインフレ期待で、何%が実質金利なのか
  • 10年と5年で“中立”と“緩和”という違う顔をしているのはなぜか
  • 米利下げと日銀利上げが同時進行したら、為替はどこへ向かうのか

これらを一つひとつ紐解いていくと、日々のニュースが“投資の判断材料”へと変わっていきます。

番組のラスト、浜田節子さんが「今日のお話を聞くと、金利のニュースの見え方が変わりますね」とまとめていた通り、

金利と為替を「遠い世界の話」から「自分のポートフォリオに直結するテーマ」へと引き寄せてくれる30分でした。


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出典:フィリップ証券

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