今週のファイナンシャル・ジャーニー(2025年11月20日放送)|超長期国債のロールダウン効果と“止まらない円安”を読む

ラジオNIKKEIで放送されている投資情報番組「ファイナンシャル・ジャーニー」。

今回は前半でフィリップ証券 リサーチ部長・笹木和弘さんが「債券投資、とくに超長期国債の魅力とリスク」を徹底解説。

後半ではアセンダント取締役・山中康司さんが、「止まらない円安」とFOMC、米政府機関閉鎖の影響まで含め、為替・株式市場の行方を語りました。

金利と為替――一見バラバラなテーマに見えますが、どちらも「時間軸」をどう取るかで投資の景色が変わる、という一本線でつながっています。

本記事では番組の臨場感を残しつつ、個人投資家が押さえておきたいポイントを整理していきます。


番組概要

番組名:ファイナンシャル・ジャーニー
放送日時:毎週木曜日 8:30〜8:49
放送局:ラジオNIKKEI第1(radikoタイムフリー対応)
提供:フィリップ証券
出演者:
笹木 和弘(フィリップ証券 リサーチ部長)
山中 康司(アセンダント取締役)
進行:浜田 節子


ファイナンシャル・ジャーニー

「わかる、かわる」をキーワードに、マーケット全体の動向から国際情勢、為替・株式・債券・デリバティブまで、その日の取引に役立つ情報を専門家がわかりやすく解説する番組です。

今回は、

・前半:高市政権の経済対策を背景に動きが激しくなっている「超長期国債」の世界
・後半:ユーロ円・ドル円の円安進行と、FOMC・米景気・株式市場の見通し

という構成で、「金利と為替」を縦軸・横軸にマーケットを俯瞰する一回となりました。


はじめに:今週の聴きどころ

今週のキーワードは

  • 利回り曲線の「スティープ化」とロールダウン効果
  • 生命保険会社の損益と、個人投資家が学べるポイント
  • クロス円(とくにユーロ円)主導の円安
  • FOMCと米雇用指標、そして「政府機関閉鎖後」の景気

の4つです。

債券投資というと「難しそう」「価格の動きがイメージしにくい」と感じる方も多いかもしれません。

番組では、額面100円の債券が「利回り0.1%の変化でいくら動くのか?」という、かなり具体的な数字まで踏み込んで解説が行われました。

後半の為替パートでは、

「ドル円だけ見ていると見落とす、クロス円主導の円売り」
「ADP雇用統計の“週次化”が投資家にもつ意味」

といった、実務家ならではの視点が随所に登場します。

目次

債券市場のいま:超長期国債が売られると何が起こるか

まずは、笹木和弘さんが解説した「超長期国債」の話から。

浜田「最近、高市政権の経済対策の規模が拡大していることを背景に、『国債の増発で、超長期国債が売られている』というニュースをよく目にします。実際、利回りもかなり動いているようですね。」

笹木「そうですね。たとえば18日の国内債券市場では、指標となる新発10年国債の利回りが1.745%。前日比で0.02%の上昇でした。

一方で、超長期の

・20年債:2.81%(前日比+0.07%)
・30年債:3.325%(同+0.07%)
・40年債:3.68%(同+0.085%)

と、期間が長くなるほど利回りの上昇幅が大きくなりました。」

浜田「期間が長いほど利回りが高くなる“右肩上がり”のカーブが、より急になっているわけですね。」

笹木「はい。これを『利回り曲線のスティープ化』と呼びます。

短いところよりも、20年、30年、40年といった超長期ゾーンが大きく売られている状況です。」

利回りと価格の関係を“腹落ち”させる

「利回りが上がると価格は下がる」――これは教科書的にはよく聞く話ですが、実際にどれくらい動くのかはイメージしづらいところ。

浜田「債券って、株と違って『価格』の話がニュースであまり出てこないですよね。利回りが0.○○%動いたと聞いても、『結局いくら値下がりしたの?』がピンとこないというか。」

笹木「そこが、債券のとっつきにくさになっている部分かもしれませんね。

まず利回りの基本から整理すると、

・額面100円に対して、毎年いくらクーポン(利息)を受け取れるか
・そのクーポンを再投資するかどうか(複利か単利か)
・購入時点から満期まで保有した場合の利回り=『最終利回り』

といった概念があります。日本ではニュースなどで単に『利回り』と言うと、通常は“単利ベースの最終利回り”を指すことが多いですね。」

そして本題の「価格」との関係について。

笹木「ポイントは3つです。

  1. 利回りが上がれば価格は下がる、利回りが下がれば価格は上がる
  2. 同じ利回り変化なら、短期債より長期債のほうが価格変動が大きい
  3. 残存期間が同じなら、クーポンが小さい債券ほど価格変動が大きい

この3つを押さえておくと、ニュースの数字がかなり立体的に見えてきます。」

0.1%の利回り上昇で、超長期債はいくら下がる?

番組では、クーポン2%の債券を額面100円(利回り2%)で買ったケースを例に、利回りが0.1%(10ベーシスポイント)上昇したら価格がどれだけ下がるか、具体的な数字が紹介されました。

笹木「期間5年の債券なら、おおよそ45銭の下落。

10年だと約83銭、20年なら1円41銭、30年なら1円84銭、40年だと2円17銭。

同じ“0.1%の利回り上昇”でも、期間が長いほど価格の下落幅が大きくなることがお分かりいただけると思います。」

浜田「単純化して言えば、“期間が長いほど、ちょっとした利回り変化でも価格が大きく動く”というわけですね。」

笹木「そうです。

今回のように、20年・30年・40年といった超長期債の利回りが1日で0.07〜0.085%も動くと、額面100円に対して1〜2円分の値下がりが“平気で出てしまう”ような局面になります。」

超長期ゾーンの動きが大きくなると、それを保有している投資主体――とくに生命保険会社の決算にも影響が出てきます。

生命保険会社に走った明暗と、個人投資家への示唆

超長期債の代表的な買い手は、「長期にわたり保険金や年金を支払う」生命保険会社です。

笹木「最近の決算でも、長期金利上昇に伴う評価損・売却損が話題になりました。

ある生命保険会社では、金利上昇=債券価格下落で保有債券の売却損を計上し、経常損益が赤字に転落したという報道もありました。

一方で、別の生命保険グループは株高による株式売却益で、“債券のマイナス”を十分に補って純利益予想を上方修正しています。」

浜田「同じ“長期金利上昇”を受けていても、ポートフォリオの組み方次第で結果が分かれた、ということですね。」

笹木「その通りです。

超長期債の利回り上昇は、足元では評価損を通じてプレッシャーになりますが、裏を返せば“今から買う人にとっては利回りが高くなった”ということでもある。

そこに、個人投資家が学べるヒントが隠れています。」

ロールダウン効果:長期債は“時間が味方”になることも

では、超長期債の利回りが上がったとき、なぜ「投資の好機になりうる」のか。

浜田「高市政権の“責任ある積極財政”のもとで経済対策の規模が拡大し、それに伴って新規国債の増発が懸念されています。

それでも、笹木さんは“更なる利回り上昇が進めば、むしろ投資の妙味が増す可能性が高い”とおっしゃっていましたよね。その理由は?」

笹木「ポイントは“時間の経過”です。

債券は、買った瞬間から少しずつ満期に近づいていきます。

利回り曲線がスティープ、つまり超長期ゾーンの利回りが高く、残存年数が短いゾーンほど利回りが低い場合、時間の経過とともに“高利回りのゾーンから、低利回りのゾーンに転がり落ちていく”ような形になる。

これを『ロールダウン効果(ロールダウン/ローリング効果)』と呼びます。」

20年債が10年債に“転がり落ちる”イメージ

具体例を使うとイメージしやすくなります。

笹木「たとえば、いま20年債の利回りが2.8%、10年債が1.75%だとしましょう。

今後10年間、利回り曲線の形が“まったく変わらない”と仮定すると、いま2.8%で買った20年債は、10年後には『残り10年』の債券になり、その時点の“10年債利回り1.75%相当”で評価されることになります。

つまり、利回りベースで見ると約1%以上の低下が期待できる。

利回りが下がるということは、価格は上がるということなので、額面100円に対して10円を超えるような大きなキャピタルゲインに相当します。」

もちろん、実際の市場では10年後の利回り曲線がどうなっているかは誰にも分かりません。

笹木「財政規律の懸念から、超長期ゾーンの利回りがさらに上昇する可能性もあります。

ですが、現在のように“長いところだけが特に高い”ような利回り曲線になっているときは、

・クーポン収入

・ロールダウン効果による価格上昇

の両方を狙える『リスクはあるが、リターンのポテンシャルも大きい局面』と見ることもできます。」

浜田「“高い金利で長く貸した上に、時間が経つと『低金利の世界』に債券が引き上げられていく”というイメージですね。」

笹木「そうですね。

だからこそ、長期金利が大きく動いたときには、“評価損に苦しむ投資主体”と同時に、“ここで買おうと待ち構えている長期投資家”も必ずどこかにいる。

そのせめぎ合いが、マーケットのダイナミズムと言えます。」

個人投資家にとっても、「利回り曲線の形」と「ロールダウン効果」という視点を持つことで、

・長期金利が上がった局面=一律に“悪いニュース”ではない

・“どの満期ゾーンにリスクを取りにいくか”で投資戦略が変わる

といった判断がしやすくなります。

ここまでが前半の債券パート。

続いて番組は一旦ブレイクし、フィリップ証券からのキャンペーン案内へと移ります。


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止まらない円安とFOMC:山中康司さんの為替ビュー

後半は、アセンダント取締役の山中康司さんがスタジオに登場。

テーマはもちろん、「止まらない円安」とその背景にある米金融政策・米景気の行方です。

浜田「山中さん、円安がなかなか止まりません。」

山中「そうですね。正直、想定していた以上のスピードで円安が進んでいる印象です。」

クロス円主導の円売りと、ユーロ円の高値圏

山中「直近の相場環境を一言でいうと、“円を買う材料が見当たらない”状態です。

ドル円だけを見ると、介入警戒感などで上値が重そうに見えるかもしれませんが、クロス円――とくにユーロ円では、すでに歴史的な高値圏にあります。

ユーロ円は180円台後半まで来ていて、“ユーロ買い・円売り”をずっと続けてきた投資家も多い。

ところが、ここまでの過程で目立った利食いが出ていないように見える。

結果として、クロス円、とりわけユーロ円主導で円売りが進んできた側面が大きかったと思います。」

浜田「ドル円のニュースはよく目にしますが、クロス円の動きこそが円売りの“本丸”だったわけですね。」

山中「はい。

介入の話になるときは、どうしてもドル円に注目が集まりがちです。

実際、去年の為替介入も水準としては“160円を超えたところ”が目安でした。

足元の水準からすると、まだ“決定的なライン”には届いていませんが、160円台に乗ってくれば介入警戒感は一気に高まるでしょう。個人的には、昨年同様“160〜162円”のゾーンはかなり意識されるのではないかと見ています。」

FOMCと利下げ確率:政府機関閉鎖の“後遺症”

今回の為替パートでもう一つ重要なのが、FOMCと米経済指標の関係です。

浜田「FOMC議事録によると、多くの参加者が“12月は据え置きが適切”という見方だったと報じられています。

市場の利下げ確率も、以前と比べて大きく変わってきましたね。」

山中「そうですね。一か月前には“年内もう一回利下げがあるだろう”という見方が9割近くを占めていたのに対し、今は12月利下げの確率が3割強まで低下しています。

とはいえ、今回の状況はかなり特殊です。

10月1日から続いた米政府機関閉鎖の影響で、通常スケジュールの経済指標が出てこなかった。

特に雇用統計は、10月分が発表中止となり、11月分が12月16日発表へとずれ込んでいます。

つまり、12月FOMCの前に“政府機関閉鎖後の雇用統計”が手元にない。

FRBも我々投資家も、見ているデータが非常に限られた状態で政策判断・投資判断を迫られているわけです。」

浜田「材料が少ない中での12月FOMC、ということですね。」

山中「そうです。

短期的には、議事録発表やNVIDIAの決算を受けて“リスクオン”の動きになっていますが、中長期的に見ると政府機関閉鎖のダメージがいつ、どの程度の形で現れてくるのかは、まだ見えません。

“明らかに悪影響しかなさそうだ”ということは多くの人が感じているはずなので、FRBが“予防的な利下げ”に動く可能性も完全には否定できない。

市場の“12月利下げ確率が3割強”という数字は、まさにその不確実性を映していると思います。」

ADP雇用統計の“週次化”と、株式市場のリスク

雇用指標といえば、民間のADP雇用統計も存在感を増しています。

山中「ADPは以前、“外れてばかりだ”と批判されることが多かったんですが、ここにきて毎週、四週平均を出す形式になりました。

これは我々投資家にとっても使い勝手がよくて、足元の雇用動向をよりグラデーションで見られるようになっています。

最近の数字を見ると、“雇用の悪化”がかなりはっきりしてきていて、週次ベースで雇用者数がマイナスというケースも二週続けて出ている。

本来、“雇用者数は基本的に増えていくもの”という前提で見ているので、これはなかなかショッキングなデータです。」

浜田「株式市場も、足元では好調そのものですが……。」

山中「目先は、FOMC議事録やハイテク決算の結果を受けて、米国株も日本株もかなりの勢いで上昇しています。

日経平均先物も5万100円台まで上昇して、“あれよあれよ”という感じですよね。

ただ、10月初めは4万6,000円台だったことを考えると、わずか数週間で6,000円も上げている。

ここまでスピードが速いと、どこかで“スピード調整”が入ってもおかしくありません。」

山中「さらに、米国株の背景には“政府機関閉鎖の悪影響が、まだ十分に織り込まれていないかもしれない”という懸念もあります。

年末相場に向けては、米景気の減速リスクと、為替・株式の急ピッチな上昇に対する“冷静な警戒”が必要だと思います。」

介入ラインと“レートチェック”をどう見るか

浜田「為替介入の話も気になります。」

山中「さきほど触れたように、ドル円で実際に介入が行われたのは、昨年は160円を超えてから。

今年も同じレンジ、160〜162円あたりはかなり意識されると見ています。

その前段階として、“レートチェック”と呼ばれる動きが出てくる可能性が高い。

市場に対して“見ているぞ”というメッセージを発することで、過度な円安にブレーキをかける狙いですね。

投資家としては、

・レートチェックの有無
・当局者の発言のトーン

を注意深く追いながら、“どこまで円安を追いかけるか”“どこでポジションを軽くするか”を考えていく必要があります。」

こうして番組は、「超長期金利」と「円安・FOMC」という一見別々のテーマを、“金利と時間軸”という共通のフレームでつなぎながら締めくくられました。


テーマを貫く一本線:「金利と時間軸」でマーケットを読む

今週のファイナンシャル・ジャーニーを貫いていたのは、

・超長期国債の利回り曲線とロールダウン効果
・為替市場での円安トレンドと、FOMC・米景気の時間差リスク

という、いずれも「時間」を意識しないと見えてこないテーマでした。

債券パートでは、

・利回り曲線のスティープ化
・ロールダウン効果による長期投資の妙味

を通じて、「いま評価損に見える動きが、将来のキャピタルゲインの源泉にもなりうる」という視点が提示されました。

為替パートでは、

・クロス円主導の円売り
・政府機関閉鎖後にあらわれるであろう米景気の“後遺症”
・利下げ確率3割台に込められた市場の逡巡

といった論点から、「今日の株高・円安が、必ずしも“安心材料”ばかりではない」という警鐘が鳴らされています。

短期と長期、金利と為替――これらを同時に眺めながら、自分の投資スタンスをどこに置くか。

そこに、今回の放送の最大のメッセージがあったと言えるでしょう。

✅ 今週の投資メモ

  1. 利回り曲線の形を確認する – 「どのゾーンが一番高いか?」を見ることで、ロールダウンの妙味が見えてくる。
  2. 長期金利の上昇=一律に“悪いニュース”ではない – 既存保有者には痛手でも、「これから買う人」にとってはチャンスになる局面もある。
  3. クロス円(とくにユーロ円)を必ずチェック – 円安トレンドの中身を理解するには、ドル円だけでなくユーロ円・豪ドル円などの動きもセットで見る。
  4. 政府機関閉鎖後の米指標に注目 – 政策決定者と同じ“限られた材料”を見ながら投資する特殊局面。ADPなど民間指標の位置づけも変化している。
  5. 160円〜162円のドル円ゾーンは要警戒 – 介入警戒感、レートチェックの報道には敏感に。ポジションサイズを抑えるなどのリスク管理も重要。

✔ 全体まとめ

・前半では、超長期国債の利回り上昇と価格下落、そしてロールダウン効果まで含めた「長期債投資のリアル」が解説された。
・生命保険会社の決算に表れた“金利上昇の明暗”は、個人投資家にとってもポートフォリオ構築のヒントとなる。
・後半では、クロス円主導の円安や、政府機関閉鎖後の米指標の読み解き方など、為替相場の「裏側」にある論点が提示された。
・足元の株高・円安局面は、短期的には追い風でも、中長期的には“スピード調整”や“景気悪化の顕在化”に注意が必要なフェーズ。

債券も、為替も、「時間」を味方につけられるかどうかで結果が変わります。

そのためには、ニュースの数字を“点”として受け取るのではなく、利回り曲線や政策スケジュールと組み合わせて“線”として捉えることが大切だと、改めて感じさせてくれる回でした。


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